9月25日。再びハノイを出てタイビン省へ。小型台風の中を宅配に回りました。
午前中の1軒目。狭い路地に車は入れず。しかも土砂降り。雨足は弱まる気配なし。車を止めた前の家の人が、合羽を含めて、10人分のビニールを気持ちよく貸してくれました。ベトナム、村社会の温かさに触れ、われわれは大いに盛り上がりました。
ダオ・スアン・ドアン(DaoXuanDoan)さんは、1947年生まれ。ベッドのそばまで行くと、横になっていました。「この人は動けません。余り話せません」と周囲の家族の人が言いました。
1966年に入隊した後、北部で訓練を受けて、タイニン省、フックロン、ソンベ省などで従軍。ドアンさんは、第5師団の医療部隊に所属していました。従軍中に、アメリカ軍の枯れ葉剤撒布も目撃し、飛行機からタンク(ドラム缶を指しているのではないか)を落としたのも目撃したと言います。 戦争の夢をみて怖くなることもあると、ドアンさんは言います。B52の空爆に遭い、食糧を運ぶ時のように、負傷者を後方に運んだこともしばしばでした。
3年前から、体が動かなくなりました。現在の症状は、左足がかなり震えることです。肩の関節も痛むと言います。左半身が、麻痺に近いです。現在漢方薬を服用しています。ベトナムの場合は、漢方薬は貧困の人が飲むものと相場がきまっています。薬は、奥さんが買いに行く役です。一日1万5千ドンの薬を30日間飲み続けます。枯れ葉剤の被害者手当は月に37万ドン。薬代が不足すると、人から借金をして、利息も払うそうです。
通常はベッドの上で、ご飯を乗せたお盆を膝に置いて、レンゲでスープを飲むそうです。どうですか、この10分前まで、寝ていた人とは思えない元気さです。 はつらつとしているではありませんか。
子どもさんは4人。長女(27歳)は結婚して、近くに住んでいます。次女は、神経に異常があり、18歳の時に痙攣が起きて、池におちて亡くなったそうです。3女は、現在ホーチミンで仕事をしています。長男は、13歳から白髪になり、現在タイビン省の障害治療センターに通っています。
車いすの使用方法の実技を始める前に、私は一言。「今日から、患者さんの前では一切タバコをやめてください。患者さんを長生きさせてあげてください」 こう言わないと嫌煙権の意識が確立しないのです。
ドアンさんの奥さんは非力で、ちょっと危なっかしかったので少々心配が残りましたが、ドアンさんの妹さんがとても熱心な方で期待できます。
新谷さんの指導にも、てきぱきと応えてくれました。寝たきりと聞いていたごま塩頭のドアンさんですが、車いすに乗ったら、人が変わったように表情も素晴らしくよくなりました。声も大きく、少し舌がもつれますが、十分聞き取れます。笑顔の素敵な方です。寝たきりにさせないで頂きたいです。
ヴー・トゥ郡在住のファム・クアン・メオ(Pham Quang Meo)さん宅を訪問しました。
1969年に入隊し、ベトナム南部のソンベ省やタイニン省で従軍しました。1975年のサイゴン陥落時には、カンボジアにいたそうです。カンボジアで負傷して、1975年9月に退役しました。枯れ葉剤の直接撒布は見たことがないそうです。「まかれたけど、何も考えませんでした。辛い臭いがしましたけどね・・・」と。
メオさんの体には、まだ砲弾や銃弾の破片が何カ所も入っています。片肌を脱いで、傷跡をみせてくれました。そのせいか、頭痛や関節痛が起きています。頭痛が余り高じてくると、「スン・フォン(前に進め!)と叫んでしまうことがあるそうです。
奥さんは、Vu Minh Dongさん。長男がいます。
そして枯れ葉剤の被害者として、次男のファム・クアン・ビン(Pham Quang Binh)さんは、右の足が左足より5センチほど短いのです。ビンさんは、生まれた時は異常がなかったそうですが、9歳の頃、足の長さのバランスが崩れてきたそうです。「病院にいったけど、だめでした」と、父親のメオさんは言っています。 現在、枯れ葉剤被害者として、35万5千ドンの手当を受けています。
ビンさんは、いま、ロシアの有名なイリザロフ教授方式と呼ばれる右足の骨を伸ばす治療を受けています。(写真)。 イリザロフ治療法は、メスの要らない手術といわれ、世界的にその方法が普及しており、イリザロフ学会もあるくらいです。
治療に使われる「イリザロフ器具」とは、1960年代にシベリアの田舎で治療に取り組んでいた整形外科医イリザロフ博士が、骨を延ばす方法を確立し、装置を開発したことから、博士の名が付けられたものです。現在では世界中に知られている骨延長の治療法です。本来は事故や奇形による骨損傷の治療方法でしたが、美容整形を目的に手術を希望する人が増えてきています。
博士の治療法とは要約すると、骨は伸びるものであるということです。例えば骨折した時に、くっつける骨と骨をしっかり固定すると、その骨と骨の間に「仮骨」といわれる柔らかい骨が出来ます。仮骨は徐々に硬くなって折れた骨と骨に同化して繋がります。繋げる骨と骨の間を少し広げると、仮骨がどんどん伸びてその隙間を埋めて繋がっていきます。まだ柔らかい時の仮骨は曲げることもねじることも、まっすぐにもできるので、変型したO脚やX脚の矯正が可能です。
さて、新谷さんが指導を始めようとした時に、今までいたメオさんの姿が見あたりません。皆、どこだろうと探し始めました。そういえば、自転車がありません。どこに行ったのでしょうか。雨の中を探しているうちに、お父さんが戻ってきました。なんと、なんと。猫を持って。何で、今、猫なのでしょうか? メオさん宅にいた猫を鯉渕さんが可愛いと言ったのを、「欲しい」と早合点したのか? 驚いたのは猫です。なんだかわけのわからないうちに、雨の中を移動させられて・・・。せめて猫でももって帰ってもらおうという田舎の方の良心なのです。
しっかりと体験していただくために、お父さんのメオさんに車いすに乗って頂きました。それをしっかりとベッドの上で見るビンさん。注意事項も、ビンさんに聞こえるように説明しました。ただ他の方と違って、ビンさんは体躯も良く、精神的にも聡明でしっかりしている人なので、車いすを動かす時にも、正確な判断が出来る人と思います。事故は、過信をしない限り起きないと思います。そして、ビンさんの足の骨がきちんと伸びれば、車いすが必要なくなる方です。(つづく)
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