チャン・スアン・チ博士は、貧しい患者とエージェント・オレンジの患者を探し、慈善で募金集めをしては、命を救おうと朝から晩まで疲れ知らずで働く。ベトナムの赤髭先生なる所以である。
チ医師は、1936年にベトナム中部のクアン・ナム省で生まれた。軍に入隊して14歳で軍医になったという経歴の持ち主だ。
「困難な子ども時代と軍隊に入隊中の厳しい時代があったおかげで、他人の苦しみがわかるようになりました」という。
その後の45年以上にわたって、チ医師は、貧しい患者、特に山岳地帯に住むエージェント・オレンジの患者に尽くしてきた。
前ビン・ディン省赤十字協会会長ヴー・ヴァン・ボン博士が、1992年に定年退職すると同時にチ医師を担ぎ出し、エージェント・オレンジの患者にボランティアで助け始めたのが、1992年のこと。
「我が国が統一されて30年が過ぎました。しかし、戦争の後遺症はまだ残っています。エージェント・オレンジの影響は、ここでは遺伝性であり、世代から世代へと引き継がれています」と、チ医師は言う。
熱意あるチ医師は、経歴の中で数え切れないほどの人々を助けてきた。そして、貧しい人と、国内外の慈善事業家とを結ぶ懸け橋になってきた。
「医者である以上、医学倫理が最も重要だと思います」と、チ医師は語る。
エージェント・オレンジの影響で、体が衰弱していく影響を受け継いだ子供たちの統計をとったのは、チ博士が初めてだったという。ビン・ディン省、コン・トゥム省、ザー・ライ省、クアン・ナム省、ダナン省、フー・イエン省といった省の山岳地帯にいる障害児や孤児たちの艱難辛苦を、もくもくと、潔癖なまでに年代順に記録をとったのだ。
仲間の医師にも助けを求めて、チ医師は、極貧で病気の子どもたちを助けるために、カネや医薬品の提供を駆りたてた。
「こういう状況のもとで、私は安眠している場合じゃありません。彼らを助ける以外に選択肢はありませんでした。孤独な子どもたちに缶ミルクをあげようが、パン一切れあげようが、何をあげようが、それらの贈り物は意味のあるものです。なぜなら、彼らは、面倒を見てくれていると思うからです」
チ博士は、努力が認められて、2002年の最優秀医師の称号を受けた。ビン・ディン省赤十字協会のダオ・ズイ・チャップ会長には、優良医師に対して最高の賛嘆する以外に手はなかった。
「チ博士が成し遂げてきたことは、真に他の模範となるものです。過去15年以上にわたって、数え切れないほどの患者の痛みを分かち合い、治療し、少しでも安堵できるように助けてきました」
写真は、ビン・ディン省トゥイ・フック郡にドアン・カイン・ズオン君を訪問したチャン・スアン・チ博士。(下に続く)