2006-06-14

サパの愛情市場 1

1年の中で、白い雲と霧に覆われることの多いPhan Xi Pang(ベトナム最高峰の山)山。その麓の小さな町・・それがサパだ。山々の青く茂った森にかずさるようにして、濡れたような雲の帯がたたずむ。

すっきりと晴れたに日には、Hoang Lien Son山脈と高く聳えるPhan Xi Pang山の頂を仰ぎ見ることが出来る。この写真は、朝霧に煙るサパの風景だ。
サパについては、4回くらいにわけて書いてみたいと思う。

 サパは、7つの少数民族が共存するところだ。その中で、山の山腹に住む少数民族が2つある。それがフモン族とザオ族だ。彼らには、情緒豊かな生活様式と長く続いた風俗習慣がある。それは、何か? それは、“愛の市場”だ。愛情市場というタイトルをつけると、昨今の日本では、淫猥な印象を受ける人もいるかも知れない。そう思うなら、それは全く勘違いである。そんなものとは質を異にする、遙かに精神的、遙かに古典的、遙かに詩的なのである。


左の写真は、サパの市場を歩く黒フモン族の女性である。

“愛情市場”は、若い男女が出会い、約束を交わす場所、そしてすでに夫となり妻となった者に、少しばかりの自由を与える場所である。以前、この2愛情市場”は、通常の市場と同時に開かれていた。
収穫の季節が過ぎると大変に賑わうのが普通である。米、とうもろこし、スモモ、桃、リンゴ、しいたけなどの産物が市場に並ぶ。他に錦織の布製品も目立つ。


現在、サパの市は、土曜日と日曜日に開かれるようになった。週末には、それぞれの民族が遊びにやってきて、違った民族の者同士が馴染みになる。

時には、遠く離れた村同士の男女が、1日かけてこの市に出向き、夜になって初めて出会い、仲良くなることもある。夫婦が二人で市場に行き、何らかの理由で結婚できなかったかつての恋人と、その日の夜に出会うこともよくあるらしい。かつての恋人同士は自分の気持ちをうち明け、また理解し会うのである。

この市場では、嫉妬によるいがみあいは起こらない。皆が夫婦の愛情や誠実さを大切にし、また自分たちの民族の風俗・習慣を尊重しているからである。

市場に行く日に、女性たちは美しく着飾る。フモン族の女性がはくゆったりとしたスカートには、ひだがたくさんついており、それが足取りに合わせてしなやかに揺れる。スカートの裾から真ん中あたりまで、紺地に赤や白を主体とした紋様がちりばめられており、大変あでやかである。少女たちの中には、黄色や緑色をあしらう子もいる。このフモン族の衣装は他の民族に比べて、4?倍の布地を使う。男性たちの衣服はもっと単純で、同色の黒の上下である。ケンベー(筏のように組んだ竹製の笛)を手に、元気そうな馬に乗ってやってくる。

赤ザオ族の少女たちの目を引く衣装は、頭の上で器用に折り重ねられた、鮮やかな赤色の広いカン(帯状の長い布)である。そして、腰にも、同色の布を巻く。もっとこだわる人なら、胸のところに赤い房飾りを付け、肩に錦織のポーチをさげる。

 赤ザオ族の女性は、フモン族の女性のようにスカートははかない。藍色や黒に染めたズボンをはき、足の部分には赤や白の模様がついている。ふくらはぎの部分にたくさんの色を織り込んだ布を巻き付けた人もいる。

 また、赤ザオ族の男性の衣服はもっと豊富である。色とりどりの衣装を紺や黒の服に変えてしまった人もいるが、そんな時はすれちがっても自分たちの民族とは気づかないほどだ。

 市場に出かけてゆく日は、喜びに満ちた日である。若い男女が小さな群れになってやってくる。皆民族の歌を歌うのだが、それは自分の気持ちを伝えるため、自分の機知を知らせるためなのだ。

 市が開かれるの夜で、街は静けさの中に沈み込んでいる。女も男も、たいてい夜通しひそひそとおしゃべりをしている。時には心が通じ合えば、誓いの印としてカンやポーチと交換する。そして、その次の日まで一緒に過ごし、次の市の時にまら合う約束をする。
Posted by Picasa

 ある土曜日の夜。サパの愛情市場に出かけてみた。すでに夜中で、冷たい雨が降っていた。心を探り合い、恋に落ちる男女にとって、この気候は実にすばらしいといえる。

 私たちは、17歳くらいのザオ族のグループで、女が2人、男2人であった。皆は売り場の平台に座って、楽しそうにおしゃべりしていた。女の子に歌ってよと、リクエストすると、男の子たちは大喜びした。可愛い顔をした女の子が歌い始めた。初めは小さく、次第に大きくなり、美しく澄んだ愛情を込めた歌声と聞こえた。

すると、突然、一人の男の子が、謳っている女の子にラジカセを近づけた。自分の友達の歌声を吹き込んでいるのだ。翌日の朝早く、偶然にも、その彼がうっとりとしてラジカセを抱えて、一人で歩いているのに出会った。彼は恋をしているようだった。

ハノイに戻る時、冷たい雨の中、甘い少女の歌声とケンの響きの余韻が、心に残っていた。

0 件のコメント: