2006-01-29

河内点描2 テットの思い出

旧正月(テット) チュック・ムン・ナン・ムイ 

  私はベトナム・ハノイで旧正月を2回過ごしました。私がハノイに駐在した1995年からは爆竹が禁止されることになり、静かな正月で肩すかしをくらったような気がしました。しかしです・・・そこはベトナム人。人の目をかすめて爆竹をならして、捕まらないように足早に逃げる人が散見されました。ないと思っていた爆竹が近くで鳴ると、やはり驚くものです。今年から中国の春節でも、「民衆」の強い要望で爆竹が解禁になりましたので、早晩ベトナム全土で爆竹が復活するのではないかと予想しています。
 
  「ね」「うし」「とら」「う」・・・とくる十二支。ベトナムの十二支はひと味違います。「うし」は「水牛」になります。「ひつじ」は「山羊」に。「イノシシ」は「豚」になります。決定的なのは「兎」。ベトナムにくると、なぜか「猫」となります。
  私がハノイに赴任する時に、日本のきれいなカレンダーをもって行きました。当時まだ印刷技術のともなわないハノイでは、日本のきれいなカレンダーは人気でした。ある人にペットの犬のカレンダーをあげました。家内が早速、私に知らせにきました。カレンダーをもらった女性たちが、ワイワイ言って盛り上がっていたのというのです。普通、カレンダーをもらうと、どの月がわかいい、どれがほしいと言うものですが、彼女たちは、「どの月の犬がおいしそう、どれがまずそう」と話していたというのです。犬肉をベトナム語で「ティッ・チョー」といいます。それから、ベトナム人に犬のカレンダーのプレゼントするのは、止めました。今年は、戌年。戌年の旧正月、あれから12年。私にはこういう思い出がありました。

  テットを祝う花は、ベトナム北部では桃の花、南部ではホアマイ(梅)というきれいな黄色い花ですが、これは梅ではなく熱帯の花です。ハノイのみならず各地では、テットの時期に合わせて花市が開かれます。グラジオラスも売られます。真剣に品定めして、かつしっかりと値引き交渉をして、交渉が成立するとにんまり。値引きの交渉は、大まじめ。時として、売り手と買い手で口喧嘩が始まります。こんな真剣な表情とやりとりは、普段では滅多にみられません。そして、みていても飽きません。ベトナム人の真剣な顔をみるなら、是非テットの花市へと。申し上げたいのです。そして、自転車やバイクに乗せたり、シクロに乗せて帰る姿は、風物詩としてはなかなか趣にあるものです。ああ、この人も、いろいろ値引きをしたんだろうな・・羽子板市のように、最後に「お手を拝借!」というのが無いだけです。 ベトナム外務省が私たちマスコミに贈ってくれる桃の生木は、とても贅沢な気分にさせてくれました。亡き母も、ベトナム外務省贈呈の桃の木をうれしそうに愛でていました。


 そして、テットが終わって、桃の木の花が終わると、この木をゴミの回収が来る日に捨てるのです。いつももったいないと思っていました。しかし、後できいてみると、この木は、すぐ植えると、そのまま伸びてくるのだそうです。そして、桃の木を拾って歩いて、それを植物を育てる人に売る人がいるのだそうです。すると、また次のテットの時には、見事に商品に生まれ変わるのだそうです。梅の木の生命力の強さと、ベトナム人の知識の豊富さには、驚きました。

  テトの前には、花の他、テト用の装飾品や赤いお年玉袋を売る屋台も出る。私の知りあいで、お年玉袋をしこたま売って、かなり収入をあげているご婦人がいました。むかしから、ベトナムでは、一見小規模と思える商売で財産を築いた人が、結構いるものです。

  テトが近づくと、ベトナム人家族は大変です。私の住んでいた町でも、正月料理の準備で休みの無い日々が続いていました。南北を通じて、正月料理に欠かせないのが鶏肉です。日本のおせちに匹敵する正月伝統料理は、豚の脂身を青豆の粉と餅米で包み、それをバナナの葉で包んで長時間蒸しあげた保存食「バインチュン Banh Chung」。日本のちまき(粽)に似てはいますが、違う物です。何日も前から仕込みをし、そして大晦日の前々日などは夜を徹して煮込みます。その働く姿は、とても感じ入るものでしあ。テトの間中、これを食べ続けるそうです。最近は、そういう伝統も薄れつつあり、バインチュンを作る家も少なくなってはきましたが、それでも、出来合いのを買ってでも家におく人もいます。 近年、おせち料理を日本人が買うのと同じです。

  私は、ハノイで初めての旧正月。新年の挨拶にまわりました。いや、驚いたのは、どこへ行ってもバインチュンが出てくるのです。餅米ですから、胃に重いのです。三軒目から、断るのに苦労します。そうすると、包んでくれて、持って帰れというのです。4ー5軒回る頃には、売るほどバインチュンが手元に集まり・・・どうしたもんかと思案したものです。確かに、食べてみると、、家毎に味がちがいます。それぞれの家庭の味が出ているようです。しかし・・・・・これを食べ尽くすのは辛いです。バインチュンのハシゴは、胃の負担を増します。

  通常、正月の一日目。きれいな服を着て親戚筋を訪問したりします。村によってはお祭りもあります。歌のコンテスト。闘鶏。人間将棋。これにも、ギャンブル好きなベトナム人は賭けます。寺は大にぎわい。当然、経済的な幸運を祈ります。二日目。親しい友人を訪ねたりします。恋人募集中の人は、近所の湖に出かけたりします。三日目。教師、教員、友人、会社の仲間を相互訪問します。「商売繁盛、あるいは仕事が順調にいきますように、そしてあなたの家にお金が水のごとく流れ込みますように」と祈って訪問した家を去るのです。すべては、カネ。カネが大事な社会です。

  「テット」は、「節」からきています。テットとは、ベトナムではテットの半月以上前から完全に仕事は浮き足立ち、テット後も1ヶ月は回転しにくい状態をいいます。ベトナム全土が完全思考停止状態になります。口の悪い連中は、テット後3ヶ月は動かないといいました。旧暦によるために、毎年、テットの日は変わります。2月半ばのこともあります。勤め人はテト前の1日とテトの3日間乃至4日間、合計で4?5日間が休みとなる場合が多いですが、我が社では、同じ動かないならもっと・・と、早めにスタッフに休みをあげていたことを思い出します。(北村 元 在シドニー)

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